シカゴの英雄、俳優でもありリリシストでもある90年代初期から活躍するラッパー、 Common (コモン)。
92年デビュー以来12枚のアルバムと、数々の映画「Selma(邦題;グローリー/明日への行進)」を筆頭に数々の映画やドラマに出演するキャリアを持ちます。
知性派、社会派と言われるリリックと硬派で常にアーティスティックに進化し続けるサウンドプロダクションはヒップホップ界から高いリスペクトとともに音楽業界からも高い評価を得ています。
常にフレッシュでその時代に合った音楽を追求・探求する様は、すでにレジェンドと言われてもおかしくない90年代から活躍するヒップホップアーティストの中でも随一と言えるでしょう。根底にある知性や社会派の一面を常に持ちつつ進化している、過去にとらわれてないクリエイティブな生き方が伝わってくる人ですね。
非常に若々しく現役感と躍動感があり、歳を重ねるごとに説得力を増してくる。そんなアーティストです。
2020年10月30日には(2020年11月6日現在では混沌としている)アメリカ大統領選挙直前に敢えてリリースされた、その名も『A Beautiful Revolution EP』をリリースしています。
このEPリリースを機に、今回はCommonのこれまでのアルバムからの曲をセレクトしながら約20年に及ぶキャリアを振り返っていきたいと思います。
- Common : レビュー
- A Beautiful Revolution Pt. 1 Full EP Play
- Take It EZ
- I Used to Love H.E.R.
- Retrospect for Life feat Lauryn Hill
- The Light
- Electric Wire Hustle Flower
- They Say
- I Want You
- Universal Mind Control (UMC)
- The Dreamer feat. Maya Angelou
- Real feat. Elijah Blake
- Black America Again feat. Stevie Wonder
- Good Morning Love feat. Samora Pinderhughes
- NPR Music Tiny Desk Concert@The White House
- まとめ
Common : レビュー
A Beautiful Revolution Pt. 1 Full EP Play
最近オリジナル(?)メンバーと化しているロバート・グラスパー、長年コモンを支え続けているドラマーのカリーリギンスをメインにブラック・ソート(The Roots)やレニー・クラヴィッツをゲストに迎えた美しきブラック・コンシャスヒップホップ。詳細はこちら↓
Take It EZ
1992年『Can I Borrow A Dollar?』より。
盟友No I.Dプロデュース。シカゴのローカル感、若々しさあふれるデビューアルバムから。まだまだ粗削りではあるもののアルバム全体に漂う軽やかでジャジーなサウンドは現在としっかりとシンクロしているのも確か。
Rasa『When Will the Day Comeby』のギターリフを使ったこの曲や、Isley Brothersの『Between The Sheets』ネタの”Breaker 1/9″など90年代アンダーグラウンドヒップホップ色満載。
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I Used to Love H.E.R.
1994年『Resurrection』より。No I.Dプロデュース。
当初はそこまで注目はされていなかったものの年月が経つにつれて評価を上げていき、いまではヒップホップクラシックとして語り継がれている名作。
その中でも代表的なクラシックであるこの曲は、商業化著しくギャングスタの所有物と化しているヒップホップをかつての純粋な女性として再想像したシニカルな内容。
アルバムを通して深く、シリアスで真摯にヒップホップと向き合っているコモンによる、コモン像を確立した作品。
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Retrospect for Life feat Lauryn Hill
1997年『One Day It’ll All Make Sense』 より。No I.DをメインにKarriem Riggins、The RootsのJames Poyserらを加えたプロデューサー陣。
ゲストにはローリン・ヒル、シャンテ・サヴァージ、デ・ラ・ソウル、エリカ・バドゥ、Q-ティップ、『A Beautiful Revolution』にも参加しているブラック・ソートなど豪華布陣。
同じ名前のバンドがあるなどの理由から、”Comom Sence”から”Common”に変更(短縮)しての最初の作品。
前作同様、商業的なヒップホップとは一線を画す高い芸術性と社会問題に切り込んだ優しくも悲哀に満ちた表現力で迫る90年代のコモンの総決算的フルボディな内容。
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The Light
2000年『Like Water For Chocolate』 より。
意外にもこのアルバムがMCAからの初メジャーアルバムであり、プロデューサーは97年頃からセッションを繰り返していた、Questlove、Day Dee(J Dilla)、D’AngeloらSoulquariansのメンバーをメインにDJ Premier、前作よりKarriem Riggins、James Poyserらが担当しNYの名門スタジオ、Electric Lady Studioで録音された。
またゲストにはJay DeeのSlum Village、CeeLo Green、Jill Scott、Biral、Roy Hargroveらが名を連ねています。
メジャーの販売力もさることながら、前作を踏襲しながらも当時最先端の音楽を提供していたクリエイター集団『ソウルクエリアンズ』を含むバックアップ陣による素晴らしいトラックとコモンの魅力が高レベルで融合した作品で、コアなヒップホップファンだけでなく、良い意味でポピュラーになることで新たなファンを獲得し、商業的にもブレイクスルー(50万枚以上セールスのゴールド認定)したアルバムと言えるでしょう
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Electric Wire Hustle Flower
2002年『Electric Circus』より。前作同様Questlove、J Dillaを中心に、ファレルウィリアムズのThe Neptunesが1曲担当。
当時の恋人Erykah Baduをはじめ、Biral、Ceelo Green、Jill Scott、そしてPrince、Bobbi Humphrey、Nicholas Paytonらもバックアップ。
前作とは打って変わり非常に野心的でエッジの効いたアプローチで、ジミ・ヘンドリックスやピンクフロイドを想起させるようなロック、エレクトロニック、ヒップホップが混ざり合ったエクスペリメンタルな内容に当時度肝を抜かれた記憶があります。今でも充分尖ってますけどね。
評価としては賛否分かれたところもあり商業的にも成功とはいえませんでしたが、音楽と自らの世界を探求する姿勢、バックアップの鬼才クリエイター陣だから成しえた奇跡的な一枚なのではないかと思える、非常に聴き応えのあるアルバムです。
このアルバムも前作同様、Electric Lady Studioでの録音で、アルバム名がひっかけられてるんでしょうかね。
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They Say
2005年『Be』より。
地元シカゴの後輩でヒップホップ界を席巻していたKanye West(カニエ・ウェスト)をメインプロデューサーに迎えた非常に完成度の高い内容で商業的にも成功。
前作であまりにもエクスペリメンタルなアプローチゆえ、リスナーからのやや否定的な評価を本人も意識していたのか、ストレートで分かり易くも奥深さ、滋味深さを感じさせるようなカニエ・ウェストのプロダクションも光る作品に仕上げています。
この『They Say』や『Go』などこの時代のカニエならではのソウルフルな仕上がりです。
言い方を変えれば「ソツのない」統率感のある内容でもありますが、個人的には2000年から中盤あたりまでのカニエ作品は非常に好きですね。
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I Want You
2007年『Finding Forever』より。
前作同様Kanye WestをメインにBlack Eyed Peasのwill i am、Karriem Riggins、Derrick Hodgeがプロデュースを担当。
前作の成功に基づいたプロダクションを踏襲しつつ、タイトでディープな世界観を持った内容。前年にこの世を去った、『Like Water For Chocolate』『Electric Circus』のプロデュースを手掛けたJ Dillaが残したトラックも使い(”So Far To Go”)つつオマージュの意味も込められているアルバムですね。
なにげにこのアルバムが個人的に一番聴いたような気がします。こちらはwill i amプロデュース曲でMVにはアリシア・キース、カニエ・ウェスト、そしてセレナ・ウィリアムズが出演。アリシア・キースが美人すぎる!
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Universal Mind Control (UMC)
2008年『Universal Mind Control』より。
Kanye Westとの製作で新たな境地を見出して、次の道へと進むべき選んだプロデューサーは、Kanye Westとともに2000年代の時代の寵児とされるファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴによるザ・ネプチューンズ。
前作までのソウルフルな作品とは変わり、あの『Electric Circus』のリベンジと言わんばかりのエレクトロニックでこの時代っぽいクラブサウンドを織り交ぜたThe Neptunesの攻めのサウンドにCommonが打ち返している、といった様相の作品。
全体的に明るくテンション高めに仕上げています。
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The Dreamer feat. Maya Angelou
2011年『The Dreamer, The Believer』より。
自身のレーベルThink Common MusicIncをWarner Bros. Recordsの傘下に立ち上げての独立第一弾。そして長年の盟友であるNo I.Dとの共同プロデュースによる原点回帰的アルバム。
時代に流されず自身の進むべき道を追及する意思表明的な気概に満ちた作品とも捉えられる2011年という時代の流れ、流行を抗うような質実剛健な内容です。
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Real feat. Elijah Blake
2014年『Nobody’s Smiling』より。前作同様No I.D.とのコンビ。
ゲストはBig Sean、Jhene Aiko、Snoh Aalegra、Elijah Blakeらを迎え、地元シカゴの暴力・高犯罪率をアルバムタイトル通り憂い、サポートをするために創られたもの。
映画「Selma(邦題;グローリー/明日への行進)」への出演など、より社会派の一面を色濃くしていくような、ディープなブラックコンシャス・ヒップホップの側面が実直に表現された作品でもあります。
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Black America Again feat. Stevie Wonder
2016年『Black America Again』より。
プロデューサーはNo I.Dがエグゼクティブで、主にRobert Glasper、Karriem Rigginsが担当。
ゲストにはBiral、Stevie Wonder、Marsha Ambrosius、The InternetのSyd、 BJ the Chicago Kid、John Legendらが参加。
ドナルド・トランプ大統領への明らかな対抗意識と共に選挙前に発売された発表された最新作『A Beautiful Revolution』と同じ流れ、コンセプトのアルバム。
アルバムタイトルからもわかるように、前作同様社会的意義を色濃く表現する作品であり、一方でロバート・グラスパーの参加により洗練された現代クロスオーバージャズとの融合に成功し、今後の方向性を示した作品であるともいえます。
この作品をきっかけに、ロバート・グラスパー、カリム・リギンスとともにAugust Greeneという別プロジェクトも生まれましたね。
こちらは別プロジェクトAugust Greeneから、BrandyをフィーチャーしたSound Of Blacknessの名曲、『Optimistic』のカバー。
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Good Morning Love feat. Samora Pinderhughes
2019年『Let Love』より。 長年のパートナーとしてサポートしてきたKarriem RigginsがJ Dillaの残したトラック”HER Love”以外すべてをプロデュース。
ゲストには Daniel Caesar、Swizz Beatz、 BJ the Chicago Kid、 Jill Scott、 Leon Bridgesらが参加。
前作のサウンドコンセプトを踏襲し、社会的なメッセージを抑えて純粋に音楽に集中させ、内省的で愛に満ち溢れた優しくも洗練されたアルバムで、全体がなんとも心地よい雰囲気に包まれています。
メッセージ性の強いコンシャスヒップホップも彼らしいですが、こういった作品も非常に味わい深く、リラックスして心にスッと染み入るような作品ばかりでおススメです。
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NPR Music Tiny Desk Concert@The White House
ホワイトハウスでのTiny Desk Concertの模様。オバマ時代だからできた、というのもありますがラッパーが一国の指導者の官邸でライブをするという衝撃。必見です。
まとめ
進化し続けるシカゴのレジェンドラッパー、Common(コモン)でした。
まさにワンエンドオンリー、ここまで現在進行形で音楽を追求しアップデートしている90年代から活躍するラッパー、いやラッパー以外のアーティストも含めて見当たらないと思えるほど稀有な存在です。もうラッパーというより「コモン」という一つのジャンル、カテゴリーみたいなものですよ。