90年代後半から2000年代を代表するヒップホップ・R&BプロデューサーであるTim Mosleyのステージネーム、 Timbaland (ティンバランド)。
『チキチキビート』『チキチキ系』などと言われる高速ハイハットとバスドラムとスネアを変則的に鳴らす独自のドラムプログラミング、ストリングスや様々なサンプリングフックを効果的に使い全体を覆うダークな雰囲気とティンバランド本人による低音音声フック、あるいは本当に『チキチキ』と言っている音声フックを多用した他に例のない独特のサウンドプロダクションにより90年代後半のR&Bシーンを席巻。
元々は90年代の人気R&Bグループ、JodeciのメインプロデューサーであるDeVante Swingに師事し、彼の下で90年代前半から経験を積みながら徐々に頭角を現してきました。
10代のころから親交のあるMissy Elliott(ミッシー・エリオット)、Magooらとはその後長きに渡りタッグを組み90年代~2000年代のヒップホップ・R&Bシーンを牽引し、プロデュース・リミックス業に至ってはヒップホップをベースにしながらもBeck、Justin Timberlake、宇多田ヒカル、Jennifer Lopez、Björk、Duran Duran、Madonnaなどロックやポップスに至る幅広いアーティストに楽曲提供する、音楽シーンの重要プロデューサーとして成長。
一方その独特なドラムプログラミングによるサウンドは、のちのUKガラージ~2Step、Dub Stepの原型とも言われ、ヒップホップトラックとしても2010年以降のサウンドに多大な影響を与えていることは間違いありません。
今回はその90年代最強プロデューサー、Timbalandの中で最も重要な「96年から06年」の12年間のプロデュースワークを振り返ってみたいと思います。
- Timbaland ワーク
- 2Pac – No More Pain (1996)
- Ginuwine – Pony (1996)
- Aaliyah – One In A Million (1996)
- Missy Elliott – The Rain (1997)
- SWV – Can We (1997)
- Timbaland & Magoo – Luv 2 Luv U (1997)
- Destiny’s Child – Get On the Bus (1998)
- Lobster & Scrimp feat. Jay-Z (1998)
- Missy Elliott – Hot Boyz (1999)
- L.O.X., Drag-On, Eve – Ryde Or Die, Bitch (1999)
- Aaliyah – Try again (2000)
- Snoop Dogg – Snoop Dogg (What’s My Name Pt. 2) (2000)
- Bubba Sparxxx – Ugly (2001)
- Drop feat Fatman Scoop (2001)
- Justin Timberlake – Cry Me A River
- Alicia Keys – Heartburn (2003)
- Lil’ Kim – The Jump Off feat. Mr. Cheeks (2003)
- Brandy – Who Is She 2 U (2004)
- LL Cool J – Headsprung (2004)
- 宇多田 ヒカル – Exodus ’04 (2004)
- Nelly Furtado – Promiscuous (2006)
- まとめ
Timbaland ワーク
2Pac – No More Pain (1996)
2Pacの全世界で1000万枚以上を売り上げた伝説的なアルバム、『All Eyez On Me』より、DeVante Swingプロデュースで、Timbalandがドラムプログラミングを担当した作品。
緊迫感のあるリリック&サウンドにハイハット多用の硬質なドラムプログラミングは、後の作品群の面影を感じさせられるもの。
Ginuwine – Pony (1996)
メジャーシーンに彼の独立した作品が送り出された中での最初のヒット作ではないでしょうか。US R&B/HipHopチャート1位獲得。
独特のハネたドラムプログラムとボコーダーの音声フックがどこかダークに流れるプロダクションに、当時初めて聴いたときに感じた違和感というのか、耳に残るクセのあるサウンドがインパクト大でした。
Aaliyah – One In A Million (1996)
当時人気絶頂のAaliyahがR.Kellyとの蜜月の関係を断ち、その才能を見極めてプロデューサーに迎え入れたティンバランドと放った96年のアルバム『One In A Million』からのタイトルトラック。
USアルバムチャート1位を獲得し、Timbalandのプロデューサーとしての地位を確固たるものとし、この先のAaliyah作品のほどんどをプロデュースすることに。Aaliyahとしても結果的にいろんな意味でR.Kellyとの決別は吉となりましたが、その後の不慮の事故による不幸は本当に残念でした。
Missy Elliott – The Rain (1997)
SWV – Can We (1997)
97年映画『Booty Call』のサウンドトラックで、ミッシー&SWVによるマッシュアップ。SWVのキャラクターに寄り気味に落ち着かせたR&Bサウンド。
▼90年代ガールズグループ特集はこちら▼
Timbaland & Magoo – Luv 2 Luv U (1997)
10代からの盟友、Magooとのペアでは3枚のアルバムをリリースしていて、そのファーストアルバム『Welcome To Our World』より。アルバムタイトルに相応しい、まさにティンバランドワークのど真ん中的世界観を体現しているアルバムですね。
この曲と前出”Pony“はやはり90年代の衝撃的な作品のひとつでしょう。硬質なチキチキビートと独特の全体を覆うダークな世界観は一度ティンバランド作品に入ってしまうと帰れなくなる非常に「クセがすごい」作品です。
Destiny’s Child – Get On the Bus (1998)
そんなティンバランド&ミッシーの快進撃には当然ながら様々なアーティストからの共演オファーが絶えなかったと思われ、多様なリミックス、プロデュース作が量産されており、やはりこのスーパーグループDestiny’s Childもしっかりと押さえてきました。
ラップや音声フックとしてティンバランド自身が絡んでくるパターンもこの辺りから(もっと前からありますが)多くなってきたように思います。ちなみにMVのダンス振り付けはAaliyahによるもの。
Lobster & Scrimp feat. Jay-Z (1998)
満を持してリリースされた本人のソロ名義アルバム『Tim’s Bio』に収録されたJay-Zとのカップリング。Jay-Z相手とあって、いつにもまして気合の入ったバウンスビートが冴えわたっていてカッコイイですね。
Missy Elliott – Hot Boyz (1999)
ミッシー・エリオットのセカンドアルバム『Da Real World』より、EveやNasをフューチャーした、この年から2000年にかけての超ロングランヒットを記録した当時のアメリカのヒップホップ系ラジオではいつでもかかっていた曲。
L.O.X., Drag-On, Eve – Ryde Or Die, Bitch (1999)
この曲も99年のヒップホップを代表する曲のひとつ。というより個人的に大のお気に入り、ティンバランド・ベストワーク!
印象的なギターリフのループを前面に出したニュー・ティンバランドトラックと「Ryde or Die,Bitch」のフレーズループとEveの掛け合い、ドライブ感とタメのあるビートに痺れる。
Aaliyah – Try again (2000)
映画『Romeo Must Die』のサントラよりUSチャートNo1ヒット作。2000年代に入っても留まるところを知らない王道チキチキはまだまだ健在で、クセになるサウンド。
イントロのティンバランドのフックはEric B & Rakimの”I Know You Got Soul“のワンフレーズですね。
Snoop Dogg – Snoop Dogg (What’s My Name Pt. 2) (2000)
あのウェッサイアンセム、Snoop Doggの『What’s My Name』が2000年、装いも新たにティンバランドによってチキチキにされた件。ネイト・ドッグとレディ・オブ・レイジのコーラスも効果的にハマったこれはこれでアリな作品。
Bubba Sparxxx – Ugly (2001)
Drop feat Fatman Scoop (2001)
Timbaland&Magooの2作目アルバム、『Indecent Proposal』よりヒップホップ界の盛り上げ野郎、Fatman Scoopをフィーチャーしたアップリフティングなフロアアンセム。
Justin Timberlake – Cry Me A River
ファレル・ウィリアムズのThe NeptunesやScott Storch、Timbalandと豪華プロデューサー陣によって製作されたジャスティン・ティンバーレイクのファーストアルバム『Justified』からのセカンドカット。
この後もジャスティンとは『Sexy Back』などの多くのヒット作を世に送り出すことになります。
Alicia Keys – Heartburn (2003)
アリシア・キーズの名盤セカンドアルバム『The Diary of Alicia Keys』より。いつものチキチキは鳴りを潜めた珍しいバンド構成のファンキーチューンながらもビートの変則性はティンバランドっぽい。
Lil’ Kim – The Jump Off feat. Mr. Cheeks (2003)
短いホーンのサンプルと忙しく掻き立てるハイハット、サビでの弦楽器のフックがどれも秀逸なフロアアンセム。ややトライバル系の跳ねるビート、雰囲気はこの年あたりから取り入れられるようになりましたね。
Brandy – Who Is She 2 U (2004)
Brandyのアルバム『Afrodisiac』より。チキチキさは抑えつつもティンバランド作品だとすぐにわかる変則ビート使いによるアプローチは、ヒップホップとR&Bのアウトプットの使い分けがより洗練されてきているように感じます。
LL Cool J – Headsprung (2004)
ヒップホップレジェンド、LL Cool Jの『The DEFinition』より。とうとうCool Jまでもがティンバランドサウンドになったと衝撃を受けた作品。いやカッコイイ、ティンバランドトラックが圧倒してますよ。
宇多田 ヒカル – Exodus ’04 (2004)
宇多田ヒカルのIsland Def-Jamよりリリースされた世界進出作品はTimbalandがプロデュース。US Hot Danceチャートでは最高9位と健闘!
Nelly Furtado – Promiscuous (2006)
2006年に設立された自身のレーベル、”Mosley Music Group“に迎え入れたアーティストのひとりだったNelly FurtadoをいきなりUSナンバー1ヒットへと導いた彼女の大出世作、代表作となった曲。
ティンバランドサウンドが緻密に計算されてポップ化に成功した好事例。
まとめ
90年代最強プロデューサー、ティンバランド・プロデュースワーク 21選でした。
この2006年以降もOne Republicとの『Apologize』、続く『The Way I Are』の大ヒット、マドンナやリアーナ、ドレイクへの楽曲提供とまだまだ一線での活躍が続いていくわけですが、やはりこの12年が個人的にティンバランドの魅力が一番感じられる時期ではないかと思います。